あたためたミルクのために一度だけレンジのベルは鳴りまた夜になる
東直子欄・特選でした。ありがとうございました。
Vuelta
蓋取れば茄子の酢漬けの五日目は食べ頃としてしずもりをりぬ
コンセント挿せばちひさく散る火花ゆめの甘さは遠くなりけり
風戦ぐアンダルシアを映すときブラウン管に立つ砂嵐
消失点 破線であつた白線がいつぽんとなり漕ぐ吾がゐる
ブレーキを握らぬ身体すれすれに傾がせて聞く歓声 旋回(vuelta)
光りつつ降る雨、やがては土砂降りの雨 車輪は止まれば倒れてしまふ
汗ひとつかかぬ口調でキャスターは選手の心拍数を語りぬ
敬礼をしてやる程度には許すオズボーンの真黒き雄牛
見下ろせばむらがりてある家の灯の愛してるとか軽く言ふなよ
血を啜る顔つきのまま投げられし空のボトルの行方は知れず
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飛べぬなら鳥には死ぬも同じだと告げくる君の呼吸熱くて
狩るときの眼はいつぽんの矢のごとし黒き鏃(やじり)が獲物へ向かふ
心臓を抉れるほどに近づけばとろ火のごとく匂ふ肉叢(ししむら)
夜は降るやわらかき草育める短き雨の静けさのなか
殺したと顔を歪めてしまふのは人だけだらう 大夕焼くる
駆けながら腕は此方へ伸ばされつ馬のまなこを吾は欲せり
いちめんの青空ほどの輝きを額(ぬか)に掲げて君は嫁すひと
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