つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

砂漠の雪(角笛4)

砂漠の雪

 

いえそれはあなたの美しい砂漠だって余白は言葉ではない

 

歳時記はついに晩冬へと至り特急列車を見送るホーム

 

二―メラ―の警告をみな口にする泡立ちながらジャムは煮詰まる

 

輪郭が滲んでしまう青空は目を傷ませる光の反射

 

ジェイコブズ・ラダー 地上は寒いからどんな言葉も手垢まみれだ

 

繋がれて生きるしかない生き物の怒り、いかづち、釣り針は金

 

それぞれの記憶の雪の重たさは異なったまま歌会終わる

 

 

それはまだニンゲンですか千年後名もない星をつなげる右手

(下の句共通の付け句企画)

 

昨年末から配布されていた山羊座生まれの短歌ネプリ「角笛4」掲載作でした。

主催の知己凜さん、ありがとうございました。

豊かな果実(色短歌ネプリ Tanka × Color)

豊かな果実

 

もうはけた芝居のために音もなく銀杏の黄色まだ降っている

 

きらきらは満身創痍の言い換えでキレートレモンは硝子の小瓶

 

豊穣、と指し示される町中の鳥も食べない果樹の果実

 

スープ屋のクリームシチューに柚子の匂い夜の深さを両手で受ける

 

 

色彩がテーマのネプリ企画「色短歌ネプリ Tanka × Color」の寄稿作品でした。主催のたかはしりおこさん、有難うございます。

「白」「黒」「紫」「青」「緑」「黄」「橙」「赤」から好きな色を選んで作るということで、たぶん青を詠む方が多いのだろうなとそこは外して自分でもあまり詠んだ記憶がない黄色にしてみたのですが(というより色を詠むことがそもそも少ないような)、蓋を開けてみると予想通り青を詠んだ作品が多くてちょっと笑ってしまいました。

 

美とエゴとの往復運動の間に――鷺沢朱理『ラプソディーとセレナーデ』感想

 

「さやうでございまする。私は総じて、見たものでなければ描けませぬ。よし描けても、得心が参りませぬ。それでは描けぬも同じ事でございませぬか。」

                          芥川龍之介地獄変』 より

 

この文章の概要:

 鷺沢朱理の歌集『ラプソディーとセレナーデ』は古今東西の様々な題材をモチーフにしつつ、美とそれに執着する創作者という主題をどこまでも展開させていった歌集ではないか。

 

Amazon CAPTCHA

 

続きを読む

祈るかわりに(折句集め)

 

 

芸術家たち 

 捧げよう暗い星さえあたためる積み木細工の静かな歌を     

 千年の流刑に処され芸術は襤褸の服着た不穏な獣    

 気が付けばくりかえし逢うちはやぶる神さま(そんなんじゃないだろう?)   

 あああれは彗星だけど(見てなさい)凛として咲く王国の花  

 まっすぐなあなたの歌に止んでいく霧雨あれがほんとうの声   

 さて此処は過去の遺恨をぐっと呑む治安の悪い極楽なのか   

 Exit the darkness.つまりいるだけでなんでもいいさ、訪れろ愛  

 流転する流れ星さえしめやかに生きてゆくから もう逢えない  

 いまはもうがらんどうでも死ねなくて高らかに鳴る深刻な歌   

 

 
嘘と激情 

 八月のすべらかな嘘 過去なんて手にも取れない月のようだと   

 あおむけば枕と吾に射してくる濾過の終わらぬ海辺のひかり   

 もうずっと輪廻の鈴が騒がしく地図を開いて秋を臨んだ

 行きますか? 目の前にある現実を正しいだけの牢獄として

 貴方だよ命は火だよ目の前のgood luckは見ないで掴む    

 激情はとうめいなまま墨染めに虞美人草は累々と咲け   

 雨の日のムラ染めみたいラブなんて無視したままで抱くよ水玉 

 河岸には見えない霧が立つけれど今逢いたくて凱旋の歌     

 

共有結晶vol.4頒布記念Twitter企画、#推しの名前をつぶやくとリプライで折句が返ってくるかも知れない に。 2018年11月頃の企画でした。なお、歌は一部改作しています。

お題を下さった皆様、有難うございました。

 

続きを読む