つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

短歌解凍掌編(再録2)

 後世に残るもっとも確実な媒体とは電子データでもなければ紙でもなく、石板に彫られた文字なのではないか。そんなよた話を、昔どこかで聞いた覚えがある。花崗岩や大理石で作られる墓碑は、しかし決して永遠の存在ではない。大理石は酸性を帯びた水に溶けやすく、花崗岩は温度差によってぼろぼろに風化する。篆刻で彫られた墓碑銘はそうして、少しずつ読めなくなっていく。

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街の神話(うたつかい34)

新年の道路はいつもより広くわたしは角を落としたようだ

ひとの子も狼の子もあてどない顔をしている夜の閑散

干からびた冬のまなこの瞬けば千光年の残業ひかる

エンターキー押されたままで伸びてゆく白い改行 春が来ていた

あ、と息吸うとき喉の奥にある南京錠の掛け金の錆

 

新型コロナウィルスの影響でGWの文学フリマ東京が中止となったことに伴い、掲載誌であるうたつかい34号、及び33号はweb公開されました。web版リンクのあるblog記事はこちら

こともなし(うたつかい33号)

わたくしを地上へ落とす風が吹くこの世はこともなし こともなし


どの窓も古い映画のようになる列車は橋を渡り続ける


抑えられ少しふるえた掌はちいさな昼の蝙蝠の羽根


おろかものばかりではない僕たちだ青を仰げばどこまでも青


夜。(海を漂うラッコたちのためバスタオルより厚い昆布を)


翻す手のひら 、カード、階段を踏み外しそうな夕焼けを見た

 


死者の名のひとつひとつに初夏の風あてるため正座するひと

 

(テーマ詠・カレンダー)

テーマ詠は東京歌壇掲載作でした。