いつかあなたは、たったひとりで死ぬだろう。
直立不動でマフラーを巻かれるのを待つあなたは、まるで一本の針葉樹のよう。両腕を回して抱きしめれば、体温に交じって木の葉の匂いがするかもしれない。今はまだ温かい身体。年を取るに連れ衰え、いつかしんと冷たくなるだろう身体。
わたしたち二人がどのようにして分かたれるのか。いつか訪れる顛末について、時折わたしは夢想する。いつまでも二人共にはいられないということを、あなたはひどく残酷な結末であるかのように言うけれど、わたしにとってそれは季節が毎年巡るように当たりまえのことだった。
誰もがひとりで死んでいく。ただその時、あなたがさみしくなければいいと思う。
わたしのジョバンニ。どこまでもどこまでも一緒に行こうという、あなたの願いは決して叶わない。
どうしたの、とあなたが尋ねる。なにも、とわたしは答える。いってらっしゃい、気を付けて。
晩年のあなたの冬に巻くようにあなたの首にマフラーを巻く / 大森静佳