つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

断片

おはなしを、あるいはエッセイの定義について(鏡の箱に手を入れる第六回(最終回)・再録)

伽鹿舎の主催するWeb文芸誌「片隅」へのエッセイ執筆についてはメールで依頼が来た。テーマや形態は自由、いつも書かれているような感じでお好きなことを……という文面を見て最初に思ったことは連載なんて自分にできるのだろうか、でも、一体何を書けばいいだ…

めばえちゃん、あるいは根無し草の善意について(鏡の箱に手を入れる第1回・再録)

突然だが、福島大学には「めばえちゃん」というゆるキャラがいる。 「めばえちゃん」は白い襟がついた明るいきみどりいろのワンピースを着ていて、おまんじゅうみたいなころんと白い顔をしている。鼻と同じ色をした茶色い目は閉じていて、多分笑っているのだ…

短歌解凍掌編(再録4)

いつかあなたは、たったひとりで死ぬだろう。 直立不動でマフラーを巻かれるのを待つあなたは、まるで一本の針葉樹のよう。両腕を回して抱きしめれば、体温に交じって木の葉の匂いがするかもしれない。今はまだ温かい身体。年を取るに連れ衰え、いつかしんと…

読書の夏、あるいは新宿紀伊国屋書店の医学事典について(鏡の箱に手を入れる4・再録)

読書の夏、あるいは新宿紀伊国屋書店の医学事典について (初出・webサイト片隅 2016/08/24掲載。一部加筆修正) ※掲載時期と合わせるため、blogの再録順は当初とは異なっています。

交換日記を始めました

平田有さんとnoteでの交換日記「よなよむ」を開始しました。よろしくお願いします。 https://note.com/yonayomu

短歌解凍掌編(再録3)

焼き場からは海が見えた。

短歌解凍掌編(再録2)

後世に残るもっとも確実な媒体とは電子データでもなければ紙でもなく、石板に彫られた文字なのではないか。そんなよた話を、昔どこかで聞いた覚えがある。花崗岩や大理石で作られる墓碑は、しかし決して永遠の存在ではない。大理石は酸性を帯びた水に溶けや…

短歌解凍掌編(再録1)

今日、きみの星がずっと前に燃えていたことを知りました。

春の夜の幻、あるいは与謝野晶子の短歌に関する個人的な妄想について

清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき / 与謝野晶子「みだれ髪」

美とエゴとの往復運動の間に――鷺沢朱理『ラプソディーとセレナーデ』感想

「さやうでございまする。私は総じて、見たものでなければ描けませぬ。よし描けても、得心が参りませぬ。それでは描けぬも同じ事でございませぬか。」 芥川龍之介『地獄変』 より この文章の概要: 鷺沢朱理の歌集『ラプソディーとセレナーデ』は古今東西の…

「コーポみさき」は小説化できるか ーー短歌と小説の叙述について

※この記事は角川短歌2018年11月号掲載の短歌連作及び第64回角川短歌賞選考座談会の内容を一部引用しています。

花を贈る(短歌解凍掌編)

自分がにんげんでないことに気付いたのがどれほど前のことであったか、もう覚えていない。 にんげん達や獣たちにひとしく流れる時の川、そのさざ波はわたしのもとには届かない。あるいはひどくゆっくりと、海に落とした木の実のような遠さで届くらしい。同じ…

二次創作短歌非公式ガイドブック・ごあいさつ(または、金属バットを無理なく無駄なく振る方法について)

共有結晶別冊企画(二次創作短歌非公式ガイドブック。詳細はこちら)のごあいさつです。好きな劇団はいつも開演前にごあいさつを書いた紙を配っていてそれを席で読むのが好きなのですが、そんな感じです。 別冊は企画書から書いていることもあり、前書きやら後…

典型的な承認欲求と自意識の話

ずっと「まとも」になりたいと思っていた。 なぜなら自分は「まとも」ではないと思っていたからだ。

はじめてのおつかい・短歌の本を買ってみよう?(サルベージ・4(最終回))

短歌とのお付き合い、または倦怠期について BL短歌は「五七五七七に萌えをぶっこむこと!」(共有結晶 創刊号「はじめに」より) 短歌を始めたばかりの頃は思い付いたネタを57577の中に収めるだけで精一杯でも、やがてこの世のすべてが57577に落と…

はじめてのおつかい・短歌の本を買ってみよう?(サルベージ・3)

短歌を知るための本について 殿下、何をお読みで? 言葉、言葉、言葉。(「ハムレット」W.シェイクスピア、松岡和子訳) Twitterで流れてくる気になった短歌をお気に入りに入れながら、こういうのを集めた本がどこかにないのかな、とずっと思っていました。…

はじめてのおつかい・短歌の本を買ってみよう?(サルベージ・2)

いわゆるところの入門書というやつについて 「名作ってなんですか?誰が決めるんですか?数字ですか?名作かどうかなんて何の客観的証拠もないじゃないですか!」 「そうよ。恋愛と同じ。何の客観的証拠もない。でも、それは存在する。」 (鴻上尚史 「恋愛…

はじめてのおつかい・短歌の本を買ってみよう?(サルベージ・1)

昔書いたけどお蔵入りした文章をサルベージ(一部加筆修正あり)してみました。短歌の本を独断と偏見込みで紹介する文章です。 もとは短歌を詠みだして3年目の頃に書いたものですが、「短歌ってよく分からないね」というのは今も変わらないなとつくづく思い…

いつか、パディントン駅で(短歌中心百合アンソロジー・きみとダンスを 寄稿作品)

2015年4月19日発行の百合詞華集「きみとダンスを」(紙媒体は頒布終了、現在は電子書籍を配信中)寄稿作品。中山明さんのオンライン歌集ラスト・トレインの一首の解凍小説を書きました。ちなみに本では一番最後に掲載されていました。実はちょっとした仕掛…

とあるキャプション (短歌の超短編)

さて、次にご覧頂くのはこちら、初代館長の記憶です。ロビー中央に立つ等身大ホログラフはご覧になられましたか? 髭を長く生やした、ええあれがそうです。 死者の記憶の保存技術を開発した初代館長Tは、自らにはその技術を用いず遺体を完全焼却するよう、ス…

遠い水、神義論と対峙する「私」ーー服部真里子『行け広野へと』について

わたしが来たのは地上に平和をもたらすためだと思ってはならない。平和ではなく、剣をもたらすために来たのだ。 (マタイ福音書10章34節) ○経緯 2015年9月20日に開催された歌集『行け広野へと』(服部真里子)批評会では後半の会場発言の時間、この…

セラフィールドの人魚(超短編・アイリッシュパブのほら話)

超短編フリーペーパー「コトリの宮殿 」19号掲載より。

連作・そしてまた夜は(アンソロジー・人は死んだら電柱になる 寄稿作品)

2014年夏コミ頒布開始「人は死んだら電柱になる」アンソロジーへの提出作品です。アンソロジーは現在は頒布終了 、国会図書館に納入されています。詳細は以下から。 人は死んだら電柱になる | アンソロジー告知サイト 掲載当時はレイアウトも各自で自由に決…

たとえば、「アイ」について

ーーすべての善き翻訳は「創作」である。 (萩原朔太郎「詩の翻訳について」より) * 「I want to hold your hand」をBeatlesが発表したのは1963年、デビューから5枚目のオリジナルシングルだった。ビルボード誌では1位を獲得、前作の「She loves you」と…

草を刈る

少額ながら寄付をしていた被災地支援団体から手紙が来たのは初夏のことでした。 震災以来、任意特定団体として活動していたその団体からの手紙は、運営が軌道に乗ったことから一般財団法人として今後は活動する、したがってこれまでの、定期的な寄付受け入れ…

海にいるのは

人魚を待っている、とあいつは言う。 学校までの道は自転車で三十分、海沿いの真っ直ぐな道は緩やかな坂道になっている。車の殆ど通らないアスファルトの狭い道には真ん中に大きなひびが走っていて、タイヤが触れるたびにがくがく揺れる。 帰り道は下り坂、…

枇杷の実のなる頃

されば若夏 放つておいても枇杷みのりひとの往き来のしづかさの外 / 今野寿美 種はどんな種でも種だから、埋めたら必ず芽が出るとわたしは言ったのだけれど、 あの子たちは一人としてそれを信じなかった。 煉瓦色の鉢は花壇で見つけた。団地共有の花壇は手…

Denkinovelでオフライン本のサンプルを作ってみた

タイトル通りです。 二次創作のオフライン本のサンプルにdenkinovel(ノベルゲーム作成プログラム?)を使ってみました。 制作者さんのかとりょーさんにもtwitter上で色々お話しさせて頂きましたが、改めて覚え書きを書いておきます。 興味のある方、ご参考…

Homo sum.

2012年11月の三連休に南三陸町のボランティアツアーに行ってきました。被災地へのボランティアツアーは幾つかあるのですがその多くが長距離バスに乗っていくものです。 初めてのボランティアツアーということもあり、体力的にバス移動は全く自信がなか…

象を撫でに行く

三連休に南三陸町に行ってきます。 旅行会社主催のボランティアツアー、初めての岩手です。 +++++震災直後、職場の同僚が仲間を募ってレンタカーで被災地ボランティアに行ったりしていました。結構沢山いたと思います。今でも継続して行ってる人もいる…