つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

題詠2014

072:銘(円)

ご銘はと聞かれて不意に思い出す過ぎ去っていた風の名前を

071:側(円)

こちら側ではない方にいる、いる、いる、と歯を剥き出してお前は告げた

070:しっとり(円)

しっとりと君を濡らした雨雲はもはや消えたとテレビが告げる

069:排(円)

もろこしの真白い粒を見つけ出し使用している排除の論理

068:沼(円)

両足を緋色の沼に浸すごと歩いてゆけば浴びる熱風

067:手帳(円)

新しい手帳を開く手つきにて真白いシャツのボタンを外す

066:浸(円)

すうすうとミントの味をお互いに浸透させるさびしいあそび

065:砲(円)

砲台のように太鼓は空仰ぎ抱かれながら殴られている

064:妖(円)

ぼくたちが車に轢かれたそのときも妖怪ウォッチは有効ですか

063:院(円)

をんなではないなと思ふ。病院の淡いピンクがひどく似合わぬ

062:ショー(円)

遠吠えをたなびかせ走る窓の灯は(イッツ・ショー・タイム)まだ燃えている

061:倉(円)

待つことは燃えていること水面の煉瓦倉庫の赤が歪だ

060:懲(円)

勧善懲悪なんてないこと知りながら君の掲げた青が痛い

059:畑(円)

ライ麦畑で腕を広げるように笑う君の傷など暴きたいのだ

058:惨(円)

凄惨に笑った君の横に立つここは静かで頬だけ熱い

057:県(円)

訪れていない県名を数えるコンビニのおにぎりの具みたいに

056:余(円)

見開きになった絵本の水彩は余白の白が一番きれい

055:芸術

沈黙があなたの武器であればいい芸術論はみな風にする

054:照(円)

残照を呼べば手を振る影がありあなたの顔は忘れてしまふ

053:藍(円)

一滴も濁らないまま夕暮れの夏空すべて藍に染まった

052:戒(円)

君に傷が残るといいな笑うように戒めるように息を吐いてる

051:たいせつ(円)

「ごたいせつ」と呼ばれて愛は咎人の束の間あたる春の陽のやう

050:頻(円)

思い出す頻度が徐々に増えていて つまりは君を忘れたのだろう

049:岬(円)

同族が欲しいと思う春の夜の岬はすべて青ざめた指

048:センター(円)

爆音よ君はそれでも行くんだろうセンターラインの白い十字へ

047:持(円)

ぐちゃぐちゃの嫉妬も汗も拭いさり正しく箸を持っている手だ

046:賛(円)

賛成の方は挙手をと声がしてもう百年の静寂を眠る

045:桑

お別れは降るものですね桑の木を手のひらばかり回り続ける

044:発(円)

出発の時刻をとうに過ぎているプラットフォームのように明るい

043:ヤフー(円)

(ガリバー旅行記のヤフーは絶え間無く争い、無益な輝く石を切に求めているという。)ヤフー僕らは美しくないねここにある言葉がみんな光らないんだ