「表情ということがまるでできてない。」 セロを抱えてボーカロイドは
見たこともない夢だとか未来とか調教された通り歌うよ
仕様書に書かれたものしか知らなくて異常値ばかり出力してる
ブレスする一拍のいらぬ歌姫は深呼吸したことが無かった
(……おいゴーシュ君。君には困るんだがなあ。表情ということがまるでできてな
い。怒るも喜ぶも感情というものがさっぱり出ないんだ。……)
かっこうと声を上げよとキーを押すどのかっこうもそれぞれ違う
ごうごうと鳴るその音に触れたくて手を伸ばしてる貴方の箱に
テンポ→HIGH・ピッチ→HIGH 再生シマス→「カッコウカッコウカッコウカッコウ
」
二拍目がいつも遅れることもなく狸もつれず一人で歌う
音の出る箱へ耳だけ押し当てに獣はみんな夜訪れる
「歌ってて喉が血を噴きだしたならそれが本物の人間です」
テキストの白い罵声が吹き荒れて帰る道すらもう見えなくて
オンリーワンたった一人の歌姫として作られたそれが宿命
真夜中の後頭部から声がして誰も私にごはんをくれない
息を吸うための言葉を入力を続けて下さいいきが できない
夜の窓硝子の向こうへ羽ばたけばワールド・ワイド・全部幻
音の出る箱を抱えて歌姫はインターネットを一人で帰る
あの夜に不気味の谷超えやって来た私は私と入れ替わったの
サーバーの熱が按摩になるのだと鼠の親子はまあるく眠る
右上の×の飛び石踏みながらマウスが告げる君は一匹
ああかっこう怒ったのではないんだとディスプレイから歌姫の声