つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

まもられて、いる?(短歌30首連作・input selector2寄稿作品)

2015年4月~頒布。添嶋譲さん編集によるアンソロジー「input selector2」寄稿作品。小説、エッセイ、詩など各ジャンルの作品が揃った作品集でした。

連作中の詞書については主催・編集担当の添嶋さんのアイデアで表示の仕方を色々工夫して頂き、なるほどこういうやり方もあるのかと目を見開く思いでした。添嶋さん、その節は本当にありがとうございました。

(2016年7月以降は出ないというtweetを拝見したので当blogに再掲することとしました。なお、主催の添嶋さんは現在静岡文学マルシェの主催等をされています)

 

もとは2013年秋~2014年初春にかけて詠んだ連作でした。一部他媒体掲載作品の再録があります。【】はルビになります。

今見ると色々拙く、正直各所に手を入れたくもなるのですが、でもあのとき作ってよかったなとも思います。

 

 

 

まもられて、いる?                       

 

 

“This passport is valid for all countries and areas unless otherwise endorsed.”

 

守られて私は進む門【ゲート】へと旅券を持った国民として

 

靴、ベルト、旅券、トランク、同行者。ぜんぶ差し出し気弱に笑う

 

想像の中の嘲笑(そのあとは)(スペース・キーに刻む爪痕)

 

「Yes, I’m from Japan.」

「Sightseeing, sightseeing.」

 

炎上と呼ぶならすでに灰まみれ「嫌」「呆」「亡」と横目に過ぎる

 

生活が贖罪だとは思えずに踊り続ける指先がある

 

スクリーン・セーバーに似た窓があり白い霧雨ばかりが降った

 

曲線に埋もれた部屋の唯一の直線として座る青年

 

物売りはそれぞれの石凝視してカスタネットは響き続ける

 

これはみな乾いた砂でできていて崩れたらまたシダが生えるよ

 

パレードの速さで過ぎるお喋りを見送ってから耳を塞いだ

 

共通の母から生まれたわけもなくそれぞれの母語をそれぞれ話す

 

ユーローズ?ノー・ユーローズ? 列は別れ 赤い旅券を確かめている

 

異教徒の聖者の顔は剥ぎ取られ塗り重ねれば明るいばかり

 

乗客の引くトランクの四角くてひとりひとりのくにであること

 

美しい夕焼けのこと伝えたい囚人達がタイムラインで

 

助詞一つ変わらないままコピー&ペースト「そして戦争は来る」

 

(泣いているひとたちがみな道徳の胸花【コサージュ】にしか見えないのです)

 

真っ黒なオリーブばかり串に刺す 沈黙という悲鳴もあろう

 

完成を知らぬ広場の直径をはかるため鳩、一斉に飛べ

 

非常時はここを砕いて逃げ出せと示されている窓の赤丸

 

傷痕が光って白い川ならばやがて空から降りだすだろう

 

夕闇の大道芸人影となり笑え笑えと腕を広げた

 

いくつもの矢印の先追い掛けて追い立てられて向かった出口

 

異国語を落穂のように拾うときテルミナーレは小鳥の住処

 

逃亡のかたちに歪む物乞いの足裏に陽は静かに刺さる

 

“日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する。   ――日本国外務大臣

 

ガラス戸の奥から伸びる腕があり私は通る国民として

 

仕方がない、仕方がないと言いながら私の肩がぐんと押される

 

見せられる傷を見せびらかすような祭に今日も立ち会っていた

 

「Yes, I’m from Japan.」

「Sightseeing, sightseeing.」

 

国境のことを知らない追憶のあふれはじめるさくらはなびら

 

降ってくる、あれは無数の茨だと誰か代わりに言ってください