Twitterで「#なんて明るいさよならだろう」という付け句タグが流行っていたので。
30首連作です。
なんて明るい
明け方の集積場のしんとしてなんて明るいさよならだろう
飲み終えたグラスをシンクに置くときのなんて明るいさよならだろう
風船がいくつも上がるホーム画面なんて明るいさよならだろう
窓ガラス磨き続ける春の日のなんて明るいさよならだろう
地下鉄の地上へ出てく瞬間のなんて明るいさよならだろう
午後9時のファミリーマートの入店音 なんて明るいさよならだろう
爪立てて割った緑のピーマンのなんて明るいさよならだろう
おしまい、とゆっくり本を閉じていくなんて明るいさよならだろう
夕暮れに眼鏡を外す世界中なんて明るいさよならだろう
潤みだす水銀灯の真白さのなんて明るいさよならだろう
途切れずに剥かれていった紅玉のなんて明るいさよならだろう
なんて明るいなんて明るい(生きるとは)なんて明るいさよならだろう
緞帳の上がったままの幕切れのなんて明るいさよならだろう
隕石のニュース溢れるタイムラインなんて明るいさよならだろう
風を切るように送信音は鳴りなんて明るいさよならだろう
噴水が空へと触れる一瞬のなんて明るいさよならだろう
野良猫に名前をつけて呼んでやるなんて明るいさよならだろう
転がったイヤフォンがこぼす音楽のなんて明るいさよならだろう
液晶のブルーライトが眩しくてなんて明るいさよならだろう
スクランブル交差点へと踏み出せばなんて明るいさよならだろう
プルタブを開いた後の静寂のなんて明るいさよならだろう
一度だけ熱く光ったフィラメントのなんて明るいさよならだろう
町中を燃やし続けた夕空のなんて明るいさよならだろう
何度でも再生できる留守電のなんて明るいさよならだろう
手のひらで火を守るようにうずくまるなんて明るいさよならだろう
改札の向こうで虹は消えかけてなんて明るいさよならだろう
*
そしてまた目覚めることは世界へのなんて明るいさよならだろう
逆光の位置にあなたを立たせればなんて明るいさよならだろう
なにもないことの不思議さ寂しさのなんて明るいさよならだろう
そうだけど蕾が開き咲くことのなんて明るいさよならだろう