つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

氷について

バルコンの手摺も冷ゆる夕暮れの森をあんまり見ては駄目だよ

 

まうずつと広がつてゐるのは曇天。窓は翼の形に開く

 

わたしさへ黙つてゐれば破れないうつくしい肖像画いちまい

 

パントマイム伝はらぬまま更くる夜の子守唄つてみんな寂しゑ

 

怒りだと気付けばさびしくなる怒り水面の波は消えていつたよ

 

たましひを呼び返すごとくりかへし空に向かつて鳴らす音楽

 

編まれたる髪は解かれそのたびに仔馬のごとく吾が背を跳ぬる

 

角を持つ獣たちから駆け出せばいまは百年越しの雪溶け

 

うつくしき馬つひに御し駆けてゆくアレンデール女王の性別は氷

 

飛び去つてしまつてもいい掌にまだ乗せてゐる手紙一通

 

+++

短歌連作サークル「あみもの」発行の「あみもの24号」寄稿作でした。

映画「Frozen2」に。