つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

橋を渡る【アンソロジー寄稿・web再録】

短歌連作 橋を渡る(ZABADAK「五つの橋」に)

2016年5月頒布開始同人誌「There's a vison - A Tribute to ZABADAK-」(冬青・編)寄稿(ライナーノーツ

(一部旧かな遣いの誤りを修正。なお私家版歌集『ヴァーチャル・リアリティー・ボックス』には同連作の歌の差し替えを含めた版を収録。)

 

      ZABADAK「五つの橋」(spotify・Album「20th」より)

   ZABADAK「五つの橋」・歌詞(uta-net より)

 

アンソロの完売した2017年以降、時折こちらで限定的に公開していたのですが、改めて再録します。web公開は原曲及び歌詞と併せて見せられるのがいいですね。Spotifyならアーティストにお金も回るし。

音楽に。 続きを読む

草の心臓(第三十回歌壇賞佳作・再録)

第三十回歌壇賞に出した短歌連作「草の心臓」(30首)の再録です。

当該連作は『歌壇』2019年2月号に全首掲載されました。

 

連作はアイルランドの民謡などをモチーフにしているのですが、この度、当該連作について、日本アイルランド協会会報第106号の佐藤亨教授(協会長)の文章において引用、言及頂いていると教えていただきました。有難うございます。

 

「草の心臓」は佳作とはいえ選考で委員の方から評をいただき大変有難く思った一方、連作や歌としての強度とは別に、私自身の知識や認識不足のためにアイルランドという国やその国で使われている言語への事実誤認やある種偏見の混じった内容になってはいなかったかと、後々振り返っては不安になっていた連作でもありました。

ですので今回、アイルランドをご専門とし、各モチーフもご存じの方から拙作について言及頂けたことにはとてもびっくりしましたし、これまでの不安を救っていただいたような気持ちです。 

(佐藤教授には私家版歌集までお求めいただいたようです。過分な言葉をいただき大変ありがたく、また恐縮しております)

 

佐藤様、真鍋様、また教えてくださった鈴木様、有難うございました。

 

 

 

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短歌解凍掌編(再録4)

いつかあなたは、たったひとりで死ぬだろう。

直立不動でマフラーを巻かれるのを待つあなたは、まるで一本の針葉樹のよう。両腕を回して抱きしめれば、体温に交じって木の葉の匂いがするかもしれない。今はまだ温かい身体。年を取るに連れ衰え、いつかしんと冷たくなるだろう身体。

わたしたち二人がどのようにして分かたれるのか。いつか訪れる顛末について、時折わたしは夢想する。いつまでも二人共にはいられないということを、あなたはひどく残酷な結末であるかのように言うけれど、わたしにとってそれは季節が毎年巡るように当たりまえのことだった。

誰もがひとりで死んでいく。ただその時、あなたがさみしくなければいいと思う。

わたしのジョバンニ。どこまでもどこまでも一緒に行こうという、あなたの願いは決して叶わない。

 

どうしたの、とあなたが尋ねる。なにも、とわたしは答える。いってらっしゃい、気を付けて。

 

 

晩年のあなたの冬に巻くようにあなたの首にマフラーを巻く / 大森静佳