つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

短歌解凍掌編(再録1)

 今日、きみの星がずっと前に燃えていたことを知りました。

  きみの星が燃えたのは春、たしか、きれいな花がたくさん咲く時期でしたっけ。星のあった場所からは結晶質の物質がたくさん見つかって、その一部はこの星にも運ばれてきたそうです。でももしそうなら、通信機越しにずっとぼくとお話してくれたきみは誰だったんでしょう。

 こちらは相変わらず、観測所と家を往復する毎日です。今日もきみの星がとてもきれいに見えました。ほんとうは、今ぼくが見ている光は、きみの星が千年前に光った時のものだそうです。きみの星はあんなにきれいなのに、きみの星はもうなくて、それならきみは今、ほんとうは何処にいるんだろうと思います。

 ね、ぼくの声、ちゃんと聞こえてますか。

 ……きこえていますか?

 

 今、つよく風が吹きました。春みたいな風です。

 きみとお話するの、ぼく、とてもとても楽しかったです。

 

 

 楽しかったね 春のけはいの風がきて千年も前のたれかの結語   井辻朱美