つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

サルベージ 赤と青


前線は既に南に生まれたり 紅い桜を冬空に足す

生き物を殺してみたくなったので浮かんだ茎を裁ち鋏で切る

体から糸がほつれてきてまして繕ってます糸伸びてます

夕方のスタバの隅で声がする「ネッシー見たの水族館で」

ため息をつくにも理由が欲しくてあたたかなマグを抱えています

過剰に多い、或いは少ないです。深呼吸する喉に風吹く

水族館のネッシーのため職員はネス湖の霧を取り寄せている

セーターを着ている子犬は繋がれて日向に座る冬の公園

駅ビルの花屋が500円で売る花束に似た優しさください

マネキンの白い手首は生きている「どうぞ私に、赤いガーベラ」

グロリオサ花の名一つ呟いて満開の花抱く夢を見る




水面は淡いあおいろ(出られません) 累々進む魚はくろい

鳩、ラッパ。ぶつかり落ちる冬の青 叩いてみれば澄んだ音して

ぐわぐわと頭を降って夜の駅 ホーム一面塩まみれなり

「鉱脈はもう見付からぬ」そう言ってまた掘り返すまた箱に入る

「指示により車間調整しています。お乗りの方は降りられません」

両端に鏡が立ててあるもので 水銀灯は永遠続く

灰色の天井に雪が光ってます 節電のため光っています

「そのひかりは眩しすぎる」一生を暗闇の中過ごす老人

左手を浄めたまえや通信機 おもてに映る「人みな不浄」

降る雪を進む天使らコート着て 人の景色を分かち合う夜

レインボーメーカー回りだす朝は夜の続きでないことにする

だけど何も変わらぬだろうと呟いて残務に戻る雪の降る夜

見回せば視界に映る人はみな黒服ばかり着てるのでした

けれど空の青に泣くことあったでしょう「ゴミのようだ」と地に唾しつつ

石達の青い共鳴聞きながらノイズを立てる心臓ひとつ

海に散る撒き餌のように行く人ら 私は誰の餌にもならぬ

鍵盤の最後の音を置くようにリターンキーでプリントをする

星の青に塗れて歌う老人が地層に浮かぶのは百年後

足跡が扉に続いていますから この家に誰か帰ったのでしょう





あちらから春、参ります雪溶けて うるんだ土の汚れが春だ

「あやまちはくりかえしませぬ」 くりかえし 春夏秋冬 冬の次は春