つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

サルベージ・夜の顔

歯車の微かに軋む音がして水の結晶回りだす夜

損失の補填作業をくりかえしただ繰り返して過ぎる一生

屋根の下並んで入る傘達が雪払いのけ取り戻す色

ずんずんと重たき頭蓋反らしつつ二足歩行のバランスを取る

震災時対応記録作成し打ち出す紙が妙に少ない

寒空の町に綻ぶ春を買う多分練り切りのような味だ

影はみな単(ひとえ)のように重なって硝子は濁る、夜の顔、かお。

オレンジは団らんの色誰も彼もやすらげぬまま首都高の夜

通知一枚で為される判別(トリアージ)明日を回すのには必要、と

いたみならとうの昔に学習し黙して座る駄犬の我ら

幸せの半分はこの掌に。飲み込みにくいバファリンに似た

「東京がこの寒さなら、……」(あすはあめ) 想像しては仰ぐ曇天

昨夜見た夢の残滓が朝の泥吸い上げたまま凍りつく道