つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

そして崩れる

そして崩れる


わたくしの影も眼鏡を持っていて時折外しレンズを磨く

俯いた君をまっすぐ貫いていつかは帰る星なのだろう

やわらかなだるま落としとして甘いパンケーキつむ(ちょっと崩れる)

さいはてかさいしょの場所かわからずにふたり見つめる海の青さよ

プラスチックのかごいっぱいの花びらを色あせたってまだ言わないで

すきまからずっと見つめていたはずのきみの代わりにみどりかがやく

瓶にして何本分かアスファルトに混ぜ込まれたる硝子カレットは

封をされる。そしてゴム印を押される。図書費の項に書かれぬ書名

反射するひかりをすべて花と呼ぶチューリップ痛いくらい赤くて

悼むという行為のエンターキーゆえに草いきれへと沈むEpitaph

孤児だったアン・シャーリーが馬車に乗り揺られるような陽射しのなかで

ながいながい旅路だろうね鳥たちのまなこに映るみどりそよめく

 

夜がくる。 なまぬるいばかりの川べりをもうちょっと歩こうか、廃墟へ

 

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エヴァンを棄てる 他( #vdbl俳句 2017)

 エヴァンを棄てる

 

    泥拭い落としひとりのバレンタイン

 

     夜の梅スニッカーズはちぎるもの

 

     告白はしないが うおに上る

 

     銀紙のちりちりと鳴る愛の日よ

 

     たんぽぽを頭にのせてチョコになれ

 

     みんなうそ。猫の舌とはチョコのこと。

 

     朧月キットカットは出せぬまま

 

     薄氷やマーブルチョコをたどりゆく

 

     手首にもチョコがついてて梅の花

 

     春の夜の電子レンジにチョコレイト

 

     バレンタインもう一度だけ化けて出ろ

 

     てのひらで溶けるチョコだけ手に乗せて

 

     ジャン・ポール・エヴァンを棄てし春の野辺

 

忘れてしまふ

 

     しやぼんだま過呼吸の苦しさで好き

 

     半券をぶらんこに置き帰ります

 

     春の風邪ビニル傘より空みれば

 

     アドリブがどうも効かずに山笑ふ

 

     きみに降る陶片、ちがう、しゃぼん玉

 

      春時雨クローンのやうにふたりきり

 

      バレンタイン棘のある花だけあげる

 

      しやぼん玉ここから先は戦争です

 

      春寒し心臓に降る雨のこと

 

      ソリストのやうだねきみの忘れ角

 

      はるのそら改札鋏が鳴つてゐた

 

      うららかな背中に向けてクラッカー

 

      パスワード忘れてしまふ鳥の恋

 

「自販機で間違えてココアを買ったからお前のと替えてくんない?」とかなんとか言えばそれはもうバレンタインBLなんだよ。

 

     缶コーヒーかすめ取られる春の夜

 

     薄氷やざまあの意味がわからない

 

   「そういえば」「んなんじゃねえよ」バレンタイン

 

     如月のココアの缶が熱すぎる

 

     自販機は黙秘貫き春の星

 

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遠い虐殺(京都文学フリマ・短歌連作フリーペーパー)

                        

 

ただしかった、ただしかったとくりかえすあなたのための夜のクリック

 

水面に指ふるるごとログインのたびにぼやける感情がある

 

ガラス器の継がれてなおも立つ様を景色と呼べば遠い虐殺

 

  どんな夜だっていつかは明ける(福田恒存 訳)

  明けない夜は長いからな(松岡和子 訳)

The night is long that never finds the day. 理由も知らずこの夜を行く

 

吹く風にまとわる衣腕に絡げいいかいこれはみんな夢だよ

 

Fragile-Handle with care取扱注意のラベルくっつけて / This machine is made of Sakura,Sakura.君は桜でできていたのか

 

窓鎖せば薄暗がりに花冷えて春には春の仮想現実

 

死んだ人、もう会わない人、最初からいなかった人 電源を切る

 

 

  私は、……人殺しだけはしないことにきめようと思う。(寺田寅彦

どこからが歌かわからぬような歌ばかり歌ってにんげんみたい

 

うばたまのデスクトップから目を逸らすまちがっていたまちがっていた

 

 

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吹雪のあとに(角笛2)

 

カーディガンの裾はためかす早足で次のページを目指し歩いた

雪原に雪降りつづくそのなかの足跡としてピチカート鳴る

最終行でぜんぶ反転してしまう叙述のように ここも地獄だ

ヤミゴメに似たものを食べ生きている歯の抜ける夢をくりかえし見る

人混みに肩いからせて歩くときひとりひとりが既に火柱

スノードームの雪降りおえた静けさのもうなにひとつ美化するものか

あたらしい語彙見付からず踊り場の光のなかへ踵を下ろす

 

付け句

雪も灰もわからぬように閉じ込める粉雪の舞うランプの宿に

 

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山羊座の歌詠みのネットプリント「角笛2」に参加させていただきました。主催の知己凜さん、ありがとうございました。

掲載されていたエッセイの、山羊座の誕生日は年末年始のイベントと近くて色々と切ない、という話に読みながらひとり大きく頷いていました。みんなそうなんだなあ。

 

kamenote.hatenablog.com

 こちらで感想書いていただいてました。ありがとうございます。服部かほさんのお歌の読みが面白くてなるほどなあと思いました。

東京歌壇1月22日

 

ガラス器の継がれてなおも立つ様を景色と呼べば遠い虐殺

 

2017年1月22日、東直子・特選でした。ありがとうございました。

京都文学フリマでこの歌を含む連作ペーパーを配布していたところ、フォロワーさんから教えていただいてびっくりしました。

東京新聞:東京歌壇 東京俳壇(TOKYO Web)

 

同日、twitter東京新聞文化部の方に言及していただき、夜になってから気づいてもう一度びっくりしました。

昨年12月、旅先で詠んだ歌でした。

 

(2/5追記:1月の月間賞をいただいてました。)