つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

氷について

バルコンの手摺も冷ゆる夕暮れの森をあんまり見ては駄目だよ

 

まうずつと広がつてゐるのは曇天。窓は翼の形に開く

 

わたしさへ黙つてゐれば破れないうつくしい肖像画いちまい

 

パントマイム伝はらぬまま更くる夜の子守唄つてみんな寂しゑ

 

怒りだと気付けばさびしくなる怒り水面の波は消えていつたよ

 

たましひを呼び返すごとくりかへし空に向かつて鳴らす音楽

 

編まれたる髪は解かれそのたびに仔馬のごとく吾が背を跳ぬる

 

角を持つ獣たちから駆け出せばいまは百年越しの雪溶け

 

うつくしき馬つひに御し駆けてゆくアレンデール女王の性別は氷

 

飛び去つてしまつてもいい掌にまだ乗せてゐる手紙一通

 

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短歌連作サークル「あみもの」発行の「あみもの24号」寄稿作でした。

映画「Frozen2」に。

カノン(角笛5)

 死者を思って触れてください。そう告げる声の深さに削られる岩

(ハラスメントが)(どのハラスメントを語ったら?)初雪はくりかえし降るから

暗闇に舌は静かに横たわり渡せる炎はいつだってひとつ

コラール 幻のろうそくの火が暗闇のなか流れはじめる

産まれたときから火はもうずっと火の形たましいの死の定義を見せて

石が氷に変わって光りだしたから半音上げて歌われる生

それぞれに苦しい声を上げただけのパッヘルベルのカノン、沈黙

 

 

付句企画   

仰ぐたびまた遠くなる月のいろ冬の寒さに反比例して

 

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やぎ座生まれの人の短歌ネプリ、「角笛」寄稿作でした。

編集の知己凛さん、ありがとうございました。

花図鑑(うたつかい32号)

花図鑑

 

わたし、も。もうそれ以上なにひとつ話したくない陽だまりでした

あたたかな雨ふるようなその雨を身体ぜんぶで受け取るような

沈黙を分類すれば色刷りの花の図鑑は閉じられぬまま

なんという激しい拒絶いま海は空より深い青色である

錆び付いた水門だからくりかえし両の鎖骨をゆっくりと圧す

 

テーマ詠
憎んでもいいよって言ってほしかった手首の骨を鎖はすべる

(題詠:「身につけるもの」)

 

テーマ詠は再録でした。