つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

Denkinovelでオフライン本のサンプルを作ってみた

 タイトル通りです。
 二次創作のオフライン本のサンプルにdenkinovel(ノベルゲーム作成プログラム?)を使ってみました。
 制作者さんのかとりょーさんにもtwitter上で色々お話しさせて頂きましたが、改めて覚え書きを書いておきます。
 興味のある方、ご参考いただければ幸いです。


前提:
 denkinovelの概要はサイトを参照。
 筆者はノベルゲームをプレイしたことがありません。
 また、オフライン本のサンプルですので、読者もノベルゲームはやってみたことが無い人を主なターゲットとして考えています。

 より具体的に申しますとこの文章はdenkinovelを使って、
・自分が出店するオフの創作イベント来場者に、自分の小説サンプルを見て興味をもってほしい
・あわよくば買って読んでほしい
・新規読者がほしい
 というのを目的にしている、同人小説書きさん(やオンライン小説書きさん)の参考になればと思い書いています。
詳細はいい、大まかな結論だけ知りたいという方は中ほどの「感想(というか結論)」をご覧ください。また、あくまで2013年1月4日現在の機能を前提に書いています。


これまでの状況:
 私の場合これまで、小説オフ本のサンプルはpixivかサイトに掲載していました。
 オフ本サンプルの典型的な形は冒頭や山場等、見せたいシーン(一カ所の時も複数の場合もあり)を1000〜3000字程度抜粋、という方式かと思います。

 ただ、これだと正直少々「引きが弱い」。
 冒頭から読者を物語に巻き込めと小説指南本ではよく言われますが、そんな簡単にはいかないのが世の常。
 勿論抜粋部分の選択の仕方にもよりますが、1000字程度だと作者の文体を見せることはできても(これはこれで読者側にはかなり重要な情報の一つではありますが)物語の世界観説明をしつつ「え、この後一体どうなるの!」的な引きを持たせる、のは結構厳しいんじゃないでしょうか。カフカ「変身」なみの、冒頭から大事件が起きるような話の構成でないと無理かと。
 といって3000字(pixivですとこの位も結構いそうなイメージ)以上になってくると、これ本当にみんな読んでくれるかな、長すぎない? という不安も出てきます。

 こうしたことから、自分のサイトでウェブ小説の長編連載をやっている方は小説本体と別にいわゆる「予告編」ページを作る場合も多いようです。
 映画の予告編や宣伝ポスターのように、主要キャラクターの決め台詞と粗筋、キャッチコピーなどをフォントサイズやフォントカラー、配置などを変えつつ配置し、予告編ページとする、というやり方です。
 サイトの場合、フォント関係や文字配置、背景についてはhtmlで指定できますので、頑張れば結構凝ったものが作れます。人によっては更に進んでflashムービーを作る方もいるようです。
 ただしこの場合「予告編」なのでキャッチーさが求められます。
 したがって演出にもよりますが、逆に文章全体の雰囲気などは見えにくくなる可能性があります。

 一方pixivの場合はフォントサイズやカラー、配置をhtmlのように指定することはできません。
(スペースキーを沢山叩けば文字位置は変えられますが、タグ指定ではないのでセンタリングなど、見え方の完全なコントロールは不可能です)
 つまり、「予告編」のような演出力は低いといえます。
 ただ、プラットフォームとしていろんな人に見せる機会を作る力は高いので、サンプルをこちらにあげている人はかなり多いと思います。
 COMITIA系の創作文芸の場合は「創作文芸見本市会場Happy Reading」なども結構使われてるんでしょうか。こちらはサンプル文がPDF、webの縦・横書きで表示されるので読者にはかなり便利なサイトだと思います。こちらもプラットフォームとしての力は比較的高いのではないかと。
 またどちらも、twitterやサイトでのアナウンスを組み合わせると更に広報力が上がると思っています。

 私自身はpixivでは「予告編」と抜粋を合わせてアップしてました(各1P)。
 が、上記の通りpixivは演出力が低いので、内心うぐぐ……となっていたのでした。
 Denkinovelはリリース当初に見掛けて面白そうだなと気になっていたのですが、その後久し振りにサイトを覗いてみたら音楽のアップロードと限定公開機能が付けられるようになっていたこともあり、試しにやってみました。
 実際のものがこちらになります。
(二次創作のためワンクッションかねてpixivからリンク張ってますがその後一次創作でも作っていますのでユーザー名で検索していただければ。オープンソースにしています。
 なお、サンプルを見なくても以下の文章は理解できるようにしているつもりです)

 今回サンプルにしたのは短編集(7話)です。全体の構成としては以下の通り。全23Pです。

全体タイトルと説明(1p)
(動画やpixivの冒頭atention的なもの)
エピグラフ(1p・本人の趣味です)
→1話目タイトル(1p)
→1話目抜粋(2P)
→2話目タイトル ……(以下同様)

 1ページに表示される文字数は400字弱(詳細はdenkinovel説明ページをどうぞ)。
 各話ごとに背景画像とBGMを一つずつ設定しています(エピグラフは背景のみ)。素材サイトからDLし使用しているのは背景画像が7枚、音源素材が3種。全体タイトルと各話タイトルはデフォルト設定のままです。
 また、画像加工にはphotoshop elementsを使っています。

作ってみた感想(というか、結論):
チュートリアルはかなり親切。htmlの初歩知識がある人なら事前に一通り読めば作業可能だと思います。
・初心者はとりあえず文章入力→改ページタグを入れてアップロードしてみるところからイメージを膨らませてみると良いのでは。
・長いものを作る際はワード等で様式を作り改ページ演出など模索しても良いかも。
・本格的なものを作る場合は1)原則音源素材なし、2)場面転換の少ないお話 でやってみるとハードルが低めかも。
・画像加工は[filter]タグを活用するとよいと思います。
 (1/5追記:最初から使える素材もあるのでそちらを先にチェックすると良いかも)
・音源素材なしでもかなりハイレベルなものが作れますが音源を利用したい場合、まずはデフォルトの音楽と効果音、特に効果音は使い倒さなきゃ損だと思います。
・イベントサンプルの場合は書影だけでも入れてみては。
・とりあえずやってみるだけでも面白いです。


詳細:
 ノベルゲームは文章、背景(挿絵)、音楽の3つで構成されています。

 この内恐らく初心者(と書いて、小説書きと読む)にもっともハードルが高いのが音楽だと思います。
 現行のdenkinovelでは音楽をアップロードするには同じ曲のmp3とogg2バージョンをアップロードする必要があり、作成者が音楽素材のバージョン変更などをする必要があります。
 このあたりの作業方法についてはサイトでもかなり親切に解説してくださっていますが(サイトのチュートリアルで作業は十分行えました)、あまり馴染みがない作業→なんか難しそう……、と思われる方が多いのではないかと。というか私もそうです。

 音楽に関してはバージョン変更もですが、そもそも自分の文章に合う音楽、を探すというのも慣れないと結構大変な気がします。
(素材探しって嵌まると中々抜けられなくなるのは私だけでしょうか)
 denkinovelはデフォルトでいくつか音源素材を用意していますので、当初は音楽は「原則使わない(ただしデフォルトの素材に丁度いいのがあった場合は除く)」というスタンスでも高品質な作品は十分作れると思います。
 サイトの「予告編」も大抵は音楽なしですし、読者側にも余り違和感はないかと。
 ここまで書いてて思ったのですが、ノベルゲーム経験の無い、純粋にサンプル文が読みたい読者からすると音楽のオンオフ機能があると嬉しいのかも知れません。
 (1/6追記:と書いてたら機能がついてました。すいません有り難うございます…)

 私のサンプルではBGMを7つ使っていますが、内4つはデフォルトの効果音、残り3つが素材サイトからDLした旋律のある音源素材です。
 楽曲はあまり聞き込んでないのですが、効果音についてはかなり使い勝手がいいものをdenkinovelは揃えているのではないかと個人的には思います。
(私の短編集は主人公も時代も雰囲気も各話全てばらばらなのです)
 後、これは実際やってみると分かるんですが、旋律のあるBGMを連続して入れると結構「うるさい」です。
 そのためDLはしたものの、結局使わなかった音源もありました。長編1本のサンプルの時はここぞというクライマックスのみ楽曲利用でも良い気がします。
 こうしたことから音源演出をする場合、旋律のある楽曲よりは効果音関係を揃えておくと初心者でも演出の選択肢が増えて良いと思うのですが、そこがデフォルトで高水準のものが用意されているのはとても親切だなと思いました。

 背景画像について。
 演出であえて背景なしにしない限りは場面転換ごとに必要なので、音楽の次に怯むポイントはここでしょうか。余り背景を変えたくない場合は場面転換の少ないお話でやってみるとよいかと。
 (1/5追記:デフォルト素材が追加されてました。カテゴリ別に通常版とぼかした版の2バージョンを用意、数も多いです。それにしても機能追加のスピードが早い……!)
 背景画像は写真素材を少しぼかしてアップロードしました。
 ぼかした方がいい、というのはチュートリアルにも書いてあります。具体的には2〜6ピクセル、ガウスでぼかしました。
 上に文字を載せる関係からあまり鮮やかな色だと見にくいため、画像は彩度・明度を調整する必要があります。私の場合、サンプルは文章はすべて色が白のため、背景は逆に暗い方が見やすくなります。
 調整方法としてはphotoshop elementsで画像を開いて新規レイヤーを作成、画像の上に重ねて塗りつぶし→「50%グレー」で不透明度を調整、暗くしていました。
 カラーバランスなどでも画像の明度は調整できますが、その場合真っ白な部分は真っ白のままなので上からグレーをかぶせて「白い部分がない」状態にした方が見やすくなると思います。
 言うまでも無く、文字色を暗くする場合は「黒い部分がない」状態になるよう、白の塗り潰しレイヤーを重ねることになります。

 ……という作業はdenkinovelの[filter white/black/snow]タグで簡単にできるんじゃ、と後から気がつきました。
(微調整はききませんが……なお、[fileter black]で実際どの程度変わるかは確認していません)

 最後に文章について。
 1ページに表示される文字数が400字前後です。
 ちょっとやってみようかな、と思った方はとりあえず文章だけ入力→改ページタグを入れてアップロード、完成品を確認してイメージを膨らませてみるといいんじゃないでしょうか。
 なお、ある程度ページ数があるものをつくる場合は、denkinovelの設定と行数と文字数が同じ様式を最初に作って、抽出箇所や改行位置など、文字だけで検討作業をすることをおすすめします。
 でないとアップロードしては微調整という大変面倒なことになります……私のように。
 ちなみにdenkinovel制作者さんはまずは5000字くらいの作品を作るのが良いと思ってらっしゃるようです。
(本文が5000字を超えるとメッセージが出ます。ちなみに私のサンプルは5500字弱です。
 私のサンプル文は当初pixiv用サンプル文を流用していましたが、最終的には若干変えています。が、文量はほぼ同じです)

 私の場合、サンプルは実際の本とは読者の感覚も異なるだろうことから改行位置などを増やす等して対応していますが、ここは完全に好みだろうなと思います。
 更に作り込むorノベルゲームに慣れている方は分量はそのまま改ページをもっと多めに入れて強調したい台詞だけを表示させたり、読むリズムをこちら側から提示しても面白い気がします。効果音と組み合わせたりとか。フォントカラー関係は余り弄ってませんが、ホラー系やファンタジー系だと面白い演出ができそうです。

 なお、音源、背景ともに、素材を使う場合は最低2ページは連続させた方が良い気がしました。余り頻繁に変えると「うるさい」ので。
 したがって文章についても、その間は統一感を出した方が良いと思います。
 つまりサンプルであっても、余り頻繁かつ唐突な場面変更をすると読者には不親切ということです。
(逆にpixivなど文字のみの場合は、雰囲気の異なるシーンを並べてもそこまで違和感は生じないという利点があるとも言えます)
 なので構成としては

全体タイトルと説明
→粗筋(無くても良い・1P)
→導入部抜粋(2P分)
→戦闘シーン抜粋(2P分)
→ラブシーン抜粋(2P分)
→クライマックス抜粋(1P)
→二人の運命はいかに!(どどーん)(1P)
→後書きでスペース番号・イベント案内

 とか、

全体タイトルと説明
→粗筋(主役Aメイン・1P)
→主役Aモノローグ抜粋(2P分)
→「一方、その頃。」(1P)
→主役Bモノローグ抜粋(2P分)
→かくして二人の運命は絡み合う……(とか何とか)(1P)
→後書きでスペース番号・イベント案内

 とかとか、そんな感じにするといいのかなあと思いました。

+++++++

 以上、音楽、画像、文章について書きましたが、どれも面倒な場合は余り深く考えずにとにかくサンプル文を放り込むだけでもいいと思います。
 とはいえ、せっかくですので挿絵機能を使って最初か最後に書影くらいは出すのをお勧めします。
(余談ですが挿絵機能を使えば漫画のサンプルアップや漫画と小説の組み合わせも一応可能になるような。
また、限定公開機能については例えば本の購入者だけにパスワードを渡す、なんてやり方もできそうです)

 個人的には自分の文章を何を見せたいのか、どこを強調したいのか、どういう雰囲気にしたいのか、描写しているイメージのどこは捨ててよくてどこは絶対守りたいのか、などなど考えるきっかけにもなって、その意味でも凄くおもしろかったです。
 その一方で当然ながら文章のイメージを固定することになるので、本を読んだ後にサンプルを見た人はどう思うのか、というのもちょっと気になりました。
 とりあえず創作文芸の方は既刊で作ってみるのは如何でしょう。 


 以上、少しでもご参考になれば幸いです。