つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

エヴァンを棄てる 他( #vdbl俳句 2017)

 エヴァンを棄てる

 

    泥拭い落としひとりのバレンタイン

 

     夜の梅スニッカーズはちぎるもの

 

     告白はしないが うおに上る

 

     銀紙のちりちりと鳴る愛の日よ

 

     たんぽぽを頭にのせてチョコになれ

 

     みんなうそ。猫の舌とはチョコのこと。

 

     朧月キットカットは出せぬまま

 

     薄氷やマーブルチョコをたどりゆく

 

     手首にもチョコがついてて梅の花

 

     春の夜の電子レンジにチョコレイト

 

     バレンタインもう一度だけ化けて出ろ

 

     てのひらで溶けるチョコだけ手に乗せて

 

     ジャン・ポール・エヴァンを棄てし春の野辺

 

忘れてしまふ

 

     しやぼんだま過呼吸の苦しさで好き

 

     半券をぶらんこに置き帰ります

 

     春の風邪ビニル傘より空みれば

 

     アドリブがどうも効かずに山笑ふ

 

     きみに降る陶片、ちがう、しゃぼん玉

 

      春時雨クローンのやうにふたりきり

 

      バレンタイン棘のある花だけあげる

 

      しやぼん玉ここから先は戦争です

 

      春寒し心臓に降る雨のこと

 

      ソリストのやうだねきみの忘れ角

 

      はるのそら改札鋏が鳴つてゐた

 

      うららかな背中に向けてクラッカー

 

      パスワード忘れてしまふ鳥の恋

 

「自販機で間違えてココアを買ったからお前のと替えてくんない?」とかなんとか言えばそれはもうバレンタインBLなんだよ。

 

     缶コーヒーかすめ取られる春の夜

 

     薄氷やざまあの意味がわからない

 

   「そういえば」「んなんじゃねえよ」バレンタイン

 

     如月のココアの缶が熱すぎる

 

     自販機は黙秘貫き春の星

 

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遠い虐殺(京都文学フリマ・短歌連作フリーペーパー)

                        

 

ただしかった、ただしかったとくりかえすあなたのための夜のクリック

 

水面に指ふるるごとログインのたびにぼやける感情がある

 

ガラス器の継がれてなおも立つ様を景色と呼べば遠い虐殺

 

  どんな夜だっていつかは明ける(福田恒存 訳)

  明けない夜は長いからな(松岡和子 訳)

The night is long that never finds the day. 理由も知らずこの夜を行く

 

吹く風にまとわる衣腕に絡げいいかいこれはみんな夢だよ

 

Fragile-Handle with care取扱注意のラベルくっつけて / This machine is made of Sakura,Sakura.君は桜でできていたのか

 

窓鎖せば薄暗がりに花冷えて春には春の仮想現実

 

死んだ人、もう会わない人、最初からいなかった人 電源を切る

 

 

  私は、……人殺しだけはしないことにきめようと思う。(寺田寅彦

どこからが歌かわからぬような歌ばかり歌ってにんげんみたい

 

うばたまのデスクトップから目を逸らすまちがっていたまちがっていた

 

 

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吹雪のあとに(角笛2)

 

カーディガンの裾はためかす早足で次のページを目指し歩いた

雪原に雪降りつづくそのなかの足跡としてピチカート鳴る

最終行でぜんぶ反転してしまう叙述のように ここも地獄だ

ヤミゴメに似たものを食べ生きている歯の抜ける夢をくりかえし見る

人混みに肩いからせて歩くときひとりひとりが既に火柱

スノードームの雪降りおえた静けさのもうなにひとつ美化するものか

あたらしい語彙見付からず踊り場の光のなかへ踵を下ろす

 

付け句

雪も灰もわからぬように閉じ込める粉雪の舞うランプの宿に

 

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山羊座の歌詠みのネットプリント「角笛2」に参加させていただきました。主催の知己凜さん、ありがとうございました。

掲載されていたエッセイの、山羊座の誕生日は年末年始のイベントと近くて色々と切ない、という話に読みながらひとり大きく頷いていました。みんなそうなんだなあ。

 

kamenote.hatenablog.com

 こちらで感想書いていただいてました。ありがとうございます。服部かほさんのお歌の読みが面白くてなるほどなあと思いました。

東京歌壇1月22日

 

ガラス器の継がれてなおも立つ様を景色と呼べば遠い虐殺

 

2017年1月22日、東直子・特選でした。ありがとうございました。

京都文学フリマでこの歌を含む連作ペーパーを配布していたところ、フォロワーさんから教えていただいてびっくりしました。

東京新聞:東京歌壇 東京俳壇(TOKYO Web)

 

同日、twitter東京新聞文化部の方に言及していただき、夜になってから気づいてもう一度びっくりしました。

昨年12月、旅先で詠んだ歌でした。

 

(2/5追記:1月の月間賞をいただいてました。)

 

 

今年作ったもの(2016)

2016年の活動記録です。

  

小説

末の姫君(アンソロジー「姫君の匣」収録)

 

短歌

文芸誌「片隅」コラボ連載「仮想記憶」(毎月掲載、5首連作×12カ月、3月まで)

m.kaji-ka.jp

うたつかい 夏号、秋号(5首連作)

ネットプリント角笛2(7首連作)

みずつき5(5首連作)

おいしい短歌(6首連作)

歌人のふんどし(相互でタイトルを出す5首連作)

三日月幻燈(24首連作)

YAMINABE(10首連作「virtual」寄稿)

 

(二次創作短歌)

現代語訳・2205(連作刀剣短歌集 fragments所収 連作23首)

橋を渡る(zabadakコンピレーションアンソロジー「There's a vision」所収 連作29首)

公募短歌集「歌集清光」(4首)「歌選兼定」(5首)

その他、本にはなっていませんが刀剣短歌のワンドロに毎週参加していました。毎回5首出していたので計80首。

 

評論・散文

文芸誌「片隅」エッセイ連載「鏡の箱に手を入れる」(隔月掲載)(3月まで)

 

典型的な承認欲求と自意識の話 - つきのこども/あぶく。