つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

街の神話(うたつかい34)

新年の道路はいつもより広くわたしは角を落としたようだ

ひとの子も狼の子もあてどない顔をしている夜の閑散

干からびた冬のまなこの瞬けば千光年の残業ひかる

エンターキー押されたままで伸びてゆく白い改行 春が来ていた

あ、と息吸うとき喉の奥にある南京錠の掛け金の錆

 

新型コロナウィルスの影響でGWの文学フリマ東京が中止となったことに伴い、掲載誌であるうたつかい34号、及び33号はweb公開されました。web版リンクのあるblog記事はこちら

こともなし(うたつかい33号)

わたくしを地上へ落とす風が吹くこの世はこともなし こともなし


どの窓も古い映画のようになる列車は橋を渡り続ける


抑えられ少しふるえた掌はちいさな昼の蝙蝠の羽根


おろかものばかりではない僕たちだ青を仰げばどこまでも青


夜。(海を漂うラッコたちのためバスタオルより厚い昆布を)


翻す手のひら 、カード、階段を踏み外しそうな夕焼けを見た

 


死者の名のひとつひとつに初夏の風あてるため正座するひと

 

(テーマ詠・カレンダー)

テーマ詠は東京歌壇掲載作でした。

氷について

バルコンの手摺も冷ゆる夕暮れの森をあんまり見ては駄目だよ

 

まうずつと広がつてゐるのは曇天。窓は翼の形に開く

 

わたしさへ黙つてゐれば破れないうつくしい肖像画いちまい

 

パントマイム伝はらぬまま更くる夜の子守唄つてみんな寂しゑ

 

怒りだと気付けばさびしくなる怒り水面の波は消えていつたよ

 

たましひを呼び返すごとくりかへし空に向かつて鳴らす音楽

 

編まれたる髪は解かれそのたびに仔馬のごとく吾が背を跳ぬる

 

角を持つ獣たちから駆け出せばいまは百年越しの雪溶け

 

うつくしき馬つひに御し駆けてゆくアレンデール女王の性別は氷

 

飛び去つてしまつてもいい掌にまだ乗せてゐる手紙一通

 

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短歌連作サークル「あみもの」発行の「あみもの24号」寄稿作でした。

映画「Frozen2」に。