題詠2012
狭い部屋合法的に叫びだすための歌さえもう忘れてる
触れたなら燃やしてしまう。灯籠の炎のように震えてる君
路地裏のマンホールの蓋回しつつ曲芸師らは夕暮れを行く
雪、嵐、カレー、夜更かし、細い道。大人にはもうつまらないもの?
私にも倒せるほどの巨大さの悪があったら、あればいいのに
絡み合うかたまり幾度も指で撫ぜほぐれた鎖の先を探す
溜め息もチューニングされてるなんて。ボーカロイドは嘆きつ歌う
がしゅがしゅとキャベツの酢漬け噛みしめて自分の口を痛めつけてる
本当は第一志望じゃなかったにんげんをまだ止めずにいます
久しぶりもう大丈夫と言う君と笑いあう夢毎日見てる
掛軸を広げる手付きで風は揺れ進水式の始まり告げる
企みは全て成功一斉に開いた花が呵々と大笑
送り手の分からぬプレゼントとして君の視界を桜で染める
痛い傷抱いた貝が全て丸い真珠を吐いて眠れますよう
「悪かった」狩の場めぐるその度に涙を落とす鰐もいるとか
ひとりでは飛んでいくことできなくて溜め息揺らす風船の紐
液晶を灯せば人の声はするひとり晩餐会の始まり
そよそよとそよぐ笑みのみする君のきっとはいつも否定の言葉
武器ならば持っているぞとビニ傘を携え風に走る少年
流されるままにいつしか渋谷駅明日の記憶を忘れてしまう
世話かけた記憶ばかりが甦り全てを許す(錯覚)三月
包囲網かごめかごめかごめの問う声は聞こえないふり 家路を探す
一行を落下していく指先に刻まれ消える活版の黒
まだ小さい足が冷たくならぬよう海一面に花びらを敷く
謎、魔法、シャツ、鍵、電話 かけられて 最後に優しい声だけ残る
「ふるさと」は柔らか過ぎて似合わぬとそっと箪笥に隠す東京
月光を貫き濡れる犀の角つるりと撫でる 君は、冷たい
罰という言葉も知らず蜘蛛の巣に砕かれ光る蝶々の羽根
幾千の足引き抜いて山駆けるドライアードの満月の夢 ドライアード……樹精(dryad)
暗闇に輝点積み上げ生きる街あか・みどり・あお 砂嵐吹く