つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

題詠2014

042:尊(円)

滅び去った巨人のように尊大な言葉ばかりが広がってゆく

041:一生(円)

一生の果ての向こうの暗闇に立ってる人をもう知っている

040:跡(円)

夢の跡。君のオカリナ吹いたこと。窓の下へと手を振ったこと。

039:鮭(円)

冷凍の鮭の切れ目が鍋の中取り戻しだすやわらかな赤

038:華(円)

ぼくたちはちょっとずつずれて日を回す中華料理のお皿みたいに

037:宴(円)

宴席の声は分厚い雲となり土砂降りだなと氷を回す

036:ふわり(円)

バックルを留めれば足の甲に風ふわり春へと歩き始める

035:因(円)

ふいに何かが視界を因数分解したような朝だ虹が揺れてる

034:由(円)

理由とか考えたくないような夢見て目覚めれば光るパソコン

033:連絡(円)

人のものを盗んだようです。母の字を古い連絡帳に見付ける

032:叩(円)

君の砂がこんなとこにも入ってて振って叩いて結局捨てる

031:栗(円)

栗ご飯の米に染み付いた甘さのような記憶がまだ残ってる

030:噴(円)

噴水、あれは燃えることのない流星。旅立ったなら帰りましょうね

029:スープ(円)

材料の分からぬスープ嗅ぐように犬はわたしに鼻を寄せくる

028:塗(円)

銀のナイフで掬うバターが柔らかくパンを抉ったここからが春

027:炎(円)

窓からのぜんぶがしろい炎ですこめかみだけが脈打っている

026:応(円)

応答せよ録音されず死んでいくあらゆるものの声よ(わたしよ)

025:がっかり(円)

信仰として君を見ていた がっかりはされたくないと思ってた

024:維(円)

遠くまで行きたいんだよ(生きたいね)蕗の皮みなまっすぐ落ちて

023:保(円)

ああ雨が降っているのか部屋中を保冷バッグの暗闇にして

022:関東(円)

緞帳を右手に絡げ引き裂けば関東平野にあめ、降り注ぐ

021:折(円)

文机の書き損じなら折りたたみ飛行機にしてもう、飛んでゆけ

020:央(円)

アスファルトの中央走る白線の少し右側ばかり歩いた

019:妹(円)

「でもわたし妹だったし、やなことは誰かがやってくれるかなって」

018:援(円)

背後から抱きつく人の背を撫でるこれはどちらの応援だらう

017:サービス(円)

我々はサービス業者捧げ持ち酒を注げば女らしき手

016:捜(円)

辺境の血はなお濃くて亡き人を探す両手に螺旋が絡む

015:艶(円)

椿油は砂礫に落ちる水のごと漆の艶の水位を上げる

014:壇(円)

(わたしだけにしか見えない祭壇に埃はつもり)止ってしまえ

013:実(円)

国は土でしょうか赤い歯肉まで果実ざくりと染み込んでゆく