つきのこども/あぶく。

おはなしにならないことごと。

あめがやむまで

6/13~6/15にtwitterで行われた「付け句祭」で書いた付け句による50首連作です。

ハッシュタグ「#雨がやむまでこのままでいい」を使用、下の句を「雨がやむまで~」とした短歌を各自がTLに投稿していました。なお「付け句祭」自体はいろいろなお題で開催されているようです。

主催者様ありがとうございました。

 

あめがやむまで

 

濡れそぼる髪のにおいのじくじくと雨がやむまでこのままでいい

 

沈黙が悲鳴のようで痛いから雨がやむまでこのままでいい

 

あかときの金星はるか硫酸の雨がやむまでこのままでいい

 

珈琲の砂糖かき混ぜられぬまま雨がやむまでこのままでいい

 

待ち人は来なかった、と思い出す 雨がやむまでこのままでいい


液晶の向こうをじょじょに滲ませる雨がやむまでこのままでいい

 

焚書ファイアマンを語れる声のふと途切れ――雨がやむまでこのままでいい。

 

傷痕のように身体は匂いだし雨がやむまでこのままでいい

 

ほんとうは真っ青だった海に降る雨がやむまでこのままでいい

 

土は土へ、灰は灰へという摂理 雨がやむまでこのままでいい

 

(ではこれは光じゃないね。君の言う雨がやむまでこのままでいい。)

 

まっ白なページ繰られていくような雨がやむまでこのままでいい

 

ステップを踏みたがる足解き放つ雨がやむまでこのままでいい

 

言い訳におあつらえ向きの降り方の雨がやむまでこのままでいい

 

夜が歌が星がテレビのざわめきが雨がやむまでこのままでいい

 

火星では激しい拒絶の意を示す:雨がやむまでこのままでいい

 

もだしつつ見やる議場の万雷の雨がやむまでこのままでいい

 

根腐れた草にもうたはあるだろう雨がやむまでこのままでいい

 

終わりまで見届けます、まだ目を閉じません。雨がやむまでこのままでいい。

 

調弦の終わらぬ身体しなだれて雨がやむまでこのままでいい

 

傘させばたぶん傘ごと飛べるから雨がやむまでこのままでいい

 

雨は縦に、あなたは横に(ぼくは待つ)雨がやむまでこのままでいい

 

道端にチョークで書いた恋文は雨がやむまでこのままでいい

 

本としてあなたの歌をくりかえす雨がやむまでこのままでいい

 

六月の冷えた青葉も濁らせる雨がやむまでこのままでいい

 

紫陽花を染め上げている青色は雨がやむまでこのままでいい

 

やまいだれみんな羽織ってゆくような雨がやむまでこのままでいい

 

目の前に誰がいるかもわからない雨がやむまでこのままでいい

 

Brave new world! と告ぐ耳鳴りの雨がやむまでこのままでいい

 

言葉では届かないだろう土砂降りの雨がやむまでこのままでいい

 

足だけが浅瀬を歩いているような雨がやむまでこのままでいい

 

イヤホンを外せば裸体となる耳よ雨がやむまでこのままでいい

 

透明なタイプライター打ち鳴らす雨がやむまでこのままでいい

 

夜、そして眼下の街へ振る指揮棒雨がやむまでこのままでいい

 

人体はうつつの領土醒め際の雨がやむまでこのままでいい

 

やむことはつまりはいたむことであり雨がやむまでこのままでいい

 

関節の外れる音のとめどない雨がやむまでこのままでいい

 

罰だって思ってる君にバスタオル雨がやむまでこのままでいい

 

くるくるとまるめて寝かせそのあとは雨がやむまでこのままでいい

 

舟はいま軌道に乗って隕石の雨がやむまでこのままでいい

 

いつの日か焼かれる本として生きる雨がやむまでこのままでいい

 

浴槽に時計落としてしまうから雨がやむまでこのままでいい

 

輪郭をぼかしてしまうあたたかな雨がやむまでこのままでいい

 

ここまでは私、そこから先は君。雨がやむまでこのままでいい。

 

月はいま地上の石となりねむれ雨がやむまでこのままでいい

 

声を出すかわりに息を深く吐く(雨がやむまでこのままでいい)

 

故障した物語自動販売機 雨がやむまでこのままでいい

 

いつか終わるものの喩えに使われる雨がやむまでこのままでいい

 

「じゃあ、行くか?」

「ああ、行こう。」

(だが動かない)

(雨がやむまでこのままでいい)

 

きれぎれの創世記にまだ「ヒト」はいない 雨がやむまでこのままでいい